先んじて書いておくと、大々的なタイトルだが、中国でまだ4箇所しか石窟寺院には行けていない。そんな人間が偉そうに何を…なのだがそれでもここ最近本当に石窟に夢中になっており、今後の旅行の指針にしてしまいそうなくらいなのである…よってこれは一旅行愛好者による石窟への愛の叫びだ。
前置き
私は元々美術鑑賞が大好きで、中国に留学してからもぼちぼち美術館へ行った。コロナ禍前から定期観測はしていて、格段に美術を取り巻く環境は整ったと思うし、すごく良い展示もあれば、映えを狙っただけとしか感想を持てないものもあった。まあこれは日本においても変わらない。
しかしやはりお国柄、美術館も表現的に難しそうな部分がある。それは中国に渡った後初めて出国した香港のM+で現体制の社会主義に対抗する作品が並ぶのを見てはたと思ったこと。もちろん中国国内に努力している優秀なクリエイターやキュレーターたちがたくさんいるし(だから美術館には通い続ける)、あいトリで起きたことを想うと、日本においても表現においての問題は存在し変わらない。それでも表現的に難しそうな部分が、日本で育った身としては当たり前にできることだった時のギャップはなかなか大きいと感じたのだった。
そもそも中国は文化大革命や苦しい時代を経て、なかなかお寺に行っても胸ときめく作品に出会えてこなかった。大事なものはほとんど博物館に移り、複製品化されている。そもそも保存されるということは、大きな努力を伴う作業なのだと中国にいるとしみじみ思う。
贅沢だけどこんな鑑賞上の悩みを抱える中、私が出会ったのは石窟寺院であった。高校で世界史選択した者ならインドのガンダーラ・アジャンター・エローラ、中国の敦煌莫高窟・龍門・雲崗くらいは記憶にあるんじゃないだろうか。
石窟との出会い
2023年6月下旬、重慶に5日ひとり旅した私は時間を持て余していた。
旅行時にとりあえずやってみるのがTwitterで地名をフォロワー限定検索をかけること。ここで昔南京にいた女さんのツイートを見かけることになる。
✔️重慶・大足石刻
— 昔南京にいた女 (@nanjingniitayo) 2019年9月22日
青い!!!ぼさぼさの原始的な山の中に突如として現れる青い仏像たちに心奪われた。「親孝行の話」「地獄絵図」「動物の広場」「孔子先生の言葉」など壁ごとにストーリーがあり見てるだけで楽しかった。仏教・道教・儒教がごちゃまぜになり、長い年月をかけてできた世界遺産、最高。 pic.twitter.com/AtX3GDKJtG
なんと魅力的なの…ということで大足石刻を見に行くことに決定。泊まったゲストハウスでも薦められ、同室に宿泊したお姉さんと共に高速バスで片道4時間ほどかけて大足まで行った。
結果これが最高だった。予定がないからと興味もないのに同行してくれたお姉さんがまた来たいと言い出すレベルの鑑賞体験となった。
唐や宋時代から残る石仏たちの美しさにあっという間に魅了され、山西省大同市の雲崗・山東省済南市の神通寺の千佛崖・甘粛省天水市の麦積山へ行くことになるのだった。
結局、何に惹かれるのか
・歴史の悠久さ
この時代にこんなもの作ってたんですね〜?!とか、この文様はこの時代こう表現してたんだとか、この時代こういう信仰が流行ったんだとかもう見所は数えきれないほどたくさんある。どの時代にも人間が生きていて、今に伝えたいことを残そうとしてたんだ…と人間の営みの尊さを感じる。
・「ここでしか見れない」という尊さ
当たり前だが石窟なので動かせない。修復されながらも昔からここにあったし、何かない限りここにあるんだ…と、その場所を訪れることにとても意味がある旅行になって満足感が高い。
・大自然
石窟ということはすなわち山にある(崖が必要なので)。観光地に今はなっているが、きっと当時は僻地、みたいな場所が多く、鑑賞と同時に大自然を味わうことになる。石窟を見に行くだけで綺麗な空気をいっぱい吸うことになるし、大体よく歩かされて健康にもなる。
・スケール感の大きさ
今まで美大受験や制作で大きい作品が評価される理由がわからないと思っていた。でも石窟のデカさには毎回めちゃくちゃテンション上がる。大き〜!と言ってる時にしか得られない気持ちよさがあるのだ。
・表現の豊かさ
光背や何に座るかひとつとっても様々な表現があるし、場所や時代によっていろんな顔があって面白い。元はシルクロードを通じ、西方との交流の中影響を受けてきた仏教美術なので、その辺りも興味深い。
まだ全然学べてないけれど、ここを勉強したいと思えば思うほどできるんだろうなあという厚みが良い。
自分なりの中国石窟マップの作り方
中国国内にこんな石窟寺院があるよー、みたいなのは有名どころ以外あまりきれいにまとめられていない。近年研究や観光地としての開発は進むが、中国国土が大きすぎるのだと思う。
そして実際有名どころに行くと「え、車で1時間半のところにもうひとつあったんかい…」みたいなことは多発しているし、コンプリートすることが良いことではないけれど悔しくなるのも事実だ。どうやって目星をつけるかさえ正直数が多くて把握しきれないので、私なりの方法を以下シェア。
①Google Scholerで石窟名を検索
ひたすらここでヒットした日本語の論文を読みながら石窟名をピックアップする。研究旅行のレポートみたいなものは読みやすくて参考にしやすい。知識も得れて一石二鳥。
②「省や都市の名前+石刻/石窟」でRED内で検索
REDは中国版インスタと紹介されることも多いのだが、ちょっと違うと思っている。実はTipsを紹介する投稿がかなり多い。実際大足へ向かった時は、REDへ見つけた記事に沿って交通手段を選んだ。辺境を攻めまくる旅行者がたくさんいるので、思いもよらない石窟に出会えることがある。
私は獣の頭の仏や、丁寧に靴を脱いで揃える僧の像にキャッキャ言うというような、人様に誇れるような楽しみ方はしていないが、趣味なのでこのくらい緩く楽しんで良いかなーと今は思っている。良い感じの石窟があれば、ぜひ教えてください。